「ベッドから出て。立って、センパイ」



最初に太陽が求めたのは、それだった。
一度交わった後だ。
当然、何も身につけていない状態である。
太陽の前で肌を見せることに未だ抵抗のある明日叶は、少しの躊躇のあと、けれどそっとベッドを抜け出すと、覚束ない足を踏みしめて床に下りた。
自らはベッドに腰掛けたまま、まるで観察するようにじっと物言わず見つめてくる太陽の視線に、醒めかけていた体温が再びとくとくと足早に巡り始めるのを明日叶は感じる。

「うん。じゃあ、こっち」
来て、と太陽が片手を伸ばした。
言われるままに近づくと、そっと腕をとられ、ベッドの上へ導かれる。
「……っわ]
力が入らず、引っ張られるままにシーツの上に膝をついた。
明日叶をベッドに上げると、太陽はそのまま枕を背にして身体を倒す。
「そのまま、オレの上に乗って」
突然難易度を上げた要求に、思いきり鼓動が跳ねた。思わず問い返す。
「の、乗る?」
「そう。そのまま……足開いて、膝ついて。オレの身体、跨ぐようにして」
既に、羞恥で視界が滲んでしまっている。
自ら言い出した手前、泣き言なんてそれこそ恥ずかしくて言えないと強く頭を振ると、明日叶は太陽の指示だけに集中するよう努めた。
そんな様子を、目を細めた太陽が優しく、けれど貫くような視線で眺め遣ってくる。

「こ、これでいい…か?」
じりじりとにじり寄るように、太陽の腰下あたりまで膝を進めた。
そのまま、ぺたんと太腿の上に腰を下ろす。
立ち膝のままでは、上体を起こしたまま寝そべる太陽に、見られたくないところまで全てが見えてしまう。
けれど、そんな明日叶のその場しのぎの誤魔化しなど一蹴するかのように、太陽の次の指示が飛ぶ。
「だめだよ、センパイ。それじゃ見えない。そのまま」
両手が明日叶の膝をぐいっと伸ばした。
「………っや」
ぐらりと身体が前に傾いで、思わず太陽の腹に手をついてしまった。
程よく鍛えられた腹筋に、ぺたりと汗ばんだ手のひらが吸い付くように止まる。
「……さ、センパイ。最後だよ」
俯いた明日叶の髪を梳くように撫でて、優しい声が最後の求めを告げる。
「もっと近くまで来て。センパイの全部が、オレの目の前に来るように。明日叶センパイの恥ずかしい姿、全部、ちゃんと見たい」
頭の片隅で微かに想像し怯えていたその要求が、現実の言葉になる。
ああ、と明日叶は両手で顔を覆った。
指に触れる肌が、燃えるように熱い。
きっともう、どうしようもないくらい赤く染まってしまっているのだろう。
「………やめとく?センパイ」
動こうとしない明日叶に、伺うように、諦めたような優しい言葉が掛かる。
ごめん、と囁く太陽の一言が、最後の引き金になった。
何もかも見せると、そう約束したのだから。
「………っ……」
唇を噛み締めて、ぎゅっと目を閉じたまま、明日叶は膝を進めた。
ちかちかと点滅する暗闇の中、太陽が大きく喉を鳴らすのだけが聞こえた。


「………ん………も、いいよ」
敏感な場所に、言葉と共にふわりと吐息がかかって、情けないほど腰が跳ねた。
バランスを崩しそうになった明日叶の腰を、そっと添えられた手が後ろから支えてくれる。
「センパイ。すげぇ嬉しい。ほんとに全部、見せてくれたんスね」
「…………っ……」
太陽の顔の、まさにその真上を跨ぐような格好で。
視界は暗くても、じりじりと焼けるような視線を、下腹部に確かに感じる。
これまでにない距離で相手の目の前に突き出す形になっている、己の欲望の具現化したそこは、一度達しているにも関わらず、また触れられてもいないというのに、半ば勃ち上がりふるふると小さく震えていて。
物欲しげなその様子が、目を閉じていても分かるから、明日叶はもう、堪えられる限界をとっくに超えた羞恥に、気を失わんばかりに動揺していた。かたかたと、どうしようもなく膝が震える。

「かわい………」
揶揄する響きなど微塵もない、純粋な言葉が余計に恥ずかしさを煽って、とうとう明日叶の瞳から雫が零れた。
「………っや……っぁ………はず、っかし……………っ」
ぽたぽたと、瞑った目尻から、次々と涙が溢れる。
片腕で顔を覆って、本格的に泣き出した明日叶の背を、太陽が大きな手で優しくさすった。
「うん……ありがとう、センパイ。伝わった、ちゃんと伝わったから」
「……っぇ……っ……」
みっともないくらい泣きじゃくりながら嗚咽を漏らす明日叶に、太陽は少しだけ辛そうに、けれど心の底から安堵したという風に声を掛け続けた。
「ありがと、センパイ。大好きだよ、本当に。本当に、好きなんだ」
「……っふ……っく……」
泣くほどまでの羞恥に身を捩りながら、それでも必死で自分のために全てを曝け出そうとする明日叶の姿に、太陽はようやく、本当にようやく、深い息を吸えたような気持ちになる。―――こんなにも不安だったのか、と、自分自身がようやく気付いた瞬間だった。

「センパイ、ありがとう」
「……っぅ…………っ」
「オレ、自分で思ってる以上に不安、だったみたいだ」
……なんだか、こっちが泣きそうになってきた。
それを誤魔化すように、太陽はそろりと舌を伸ばした。
「……っひぅ……っ……!?」
飛びのこうとする腰を、強く抑え込んだまま、前後にちろちろと動かす。
緩やかではあるものの、いきなりの弱い筋への刺激に、ぐ、と目の前のものが質量を増すのを太陽は確認する。
「ねぇ……もう、平気、っスよね……センパイは、全部見せてくれた。もう、恥ずかしく、ない、よね……?」
急速に天を仰ぎ始めた明日叶のそれを、一気に口内に迎え入れると、太陽は舌全体でその愛しい熱を翻弄しにかかった。
「………い、……っやああぁ………っ!!……は、っ、……あっぁ、ぁんっ、あーっ……!」
羞恥か快楽か、もうどちらのせいなのか分からないほど泣き叫ぶ明日叶を無視して、太陽は無心にそこを弄る。
噛むというほどでもなく。
けれど、膨張して張り詰めた皮膚には充分すぎる刺激になり得る強さで、太陽の歯が明日叶自身をやわやわと食む。
二度目のせいか味の薄い先走りの液が、太陽の唾液とあいまって、ぐちゅぐちゅといやらしい音を立てた。
絶え間なく零れ落ちてくるそれを飲み込みながら、太陽は上を見上げる。
未だしっかりと閉じたまま、震えながらその美しい瞳の色を隠す睫毛を。
男にしては長い、綺麗な縁取りの小刻みな震えに、なぜだか無性にそそられた。
堪えきれず、片手を自身に伸ばす。
明日叶を愛撫する舌の動きと、己を追い立てる手の動きが、同調して同じ音を刻む。
辛く引き攣れるようなだけだった泣き声が、次第に熱を帯び甘く濡れていくことと、快楽を追う本能が理性を飛び越えたのか、少しずつ、舌に合わせて小さく前後に動き出した腰が、太陽の胸をひたひたと満たしていく。
言葉に代えて、腰に添えた手を思い切り引き寄せた。
「………っぅ……っ…」
喉の奥に熱の塊を感じて、一瞬、太陽の息が詰まる。
むせそうな苦しさと反比例して、下腹部の熱が一気に爆発した。
―――と同時に、真上から、今度こそ確かな泣き声が降ってくる。
男の泣き声なんて、あまり聞くことなどないのに。
か細くその白い喉を震わせるその声はやけに美しく、旋律のように聞こえた。


びくびくと隠すことなく欲望を吐き出すそれを愛しげに舐め上げ、飲み下し、最後まで吸い上げて。
存分に味わい尽くしたと思ったその瞬間、とうとう、とさりと華奢な身体が膝を崩した。
倒れ掛かる明日叶を、横抱きにして体勢を入れ替え、そっとベッドに寝かしてやる。
反射が続いているのか。
意識の無い中、閉じた両目からは未だぽろぽろと涙が零れ続けている。
そっと指で、そして青い味の残る舌先でそれぞれ拭い取ると、太陽はどうしようもなく愛しい恋人を、力いっぱい抱きしめた。


「好き」





もう、疑問符はつかない。






















◆あとがき◆

「ベッドの上のお題」、通称『桃色お題、10連発!」(←勝手に命名)
さぁて始まりました!エロ×10の試み!記念すべき第1弾は「逆転体勢フ○ラ」がテーマでした☆
まさかの前後編仕立て!途中で長くて収拾つかなくなった結果です(^-^;)
羞恥心の強い明日叶ちんに対して、太陽は「それはそれで萌えるんだけど」とか思いながらも、
どこか自分の一方通行気味に悶々と悩んでるのではないかと。
いっぺん、本気で自分のことを信頼して全てを預けてくれる覚悟があるのか、試してみたいと
思ってるんじゃないかーと妄想した結果の産物です。
雪織の書く太陽にしては、珍しくSっ気の少ない話になりました。
ひどく恥ずかしいことを明日叶ちんに要求してますが、決して強要ではなく。
意地悪な気持ちも全然無くて、ただ純粋に「限界を見せてほしい」と願ってる。
そんな太陽の純真さと、それに激しく反比例するエロ指令を両立させてみました。
何が楽しかったって、明日叶ちんをマジ泣きさせたこと……(究極のドS発言・笑)
受けが攻めの顔の上に乗ってフェ○されるっていうシチュエーションは、個人的に雪織が
最も「こりゃ恥ずかしいだろう!」と思っている状況です(笑)
まぁ恥ずかしさの指針は人それぞれなので、「えー、全然エロくないじゃん〜」とか思われる
方がいらっしゃいましたら、ほんとすいません(苦笑)
くそう、エロ書くと、己の主観がバレるので恥ずかしいな……!!
(ある意味、明日叶ちんよりも私の方が恥ずかしがるべき)
最初に最難関(自分的)ともいえるものを書いたので、次からはハードル下がると嬉しい。

2010.9.16 up







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