するりと慣れた具合に潜り込んできた舌からは、仄かに優しいミルクの味がした。
―――いや、それは自分の方なのだろうか?
甘い香りに酔わされたように、頭が上手く働かない。



「………っ!」
おずおずと差し出しかけた舌全体を、裏側からざらりと舐め上げられた。
その一瞬で、全身に鳥肌が立つ。
大きく熱いその舌は、明日叶自身知らないような快感を、容易く開拓してしまう。
思わず眉を寄せると、その表情を楽しそうに見下ろしてディオが唇を離した。
「キスだけで、んな顔してんじゃねーよ」
そう言って少しだけ苦く笑うと、ディオは明日叶の脇に手を入れ、軽々と椅子から立ち上がらせた。
「……ディオ?」
不安げな明日叶を立たせたまま、今度は自分がその椅子に腰を下ろす。
いつもとは、反対の目線。
射るような視線が、慣れない位置から見上げてきた。
その中に、ちらちらと熱が揺れている………気がする。



「脱げよ、明日叶」
唐突に、よく響く声が短く命じる。
思わず、ぴくりと肩が跳ねた。
が、それが恐怖からではなく、もっと別の理由だと分かっているだけにやりきれない。
その証拠に、これから先の展開を期待して、心音は喧しいほど高鳴っている。
「……なんで」
精一杯虚勢を張って、顔を背ける。
それを、ディオが面白そうに見つめてくるのを横目で捕らえたが、明日叶は気付かないフリをした。
「なんでって……」
くっ、と喉の奥で笑う声が聞こえた。
「お前が言ったんだろ、ガッティーノ。祝ってくれるってさ」

―――やっぱり逆手に取られてしまった。
自分の不用意な発言を激しく後悔しているつもりなのに、身体は裏腹にじわり、じわりと温い熱に炙られ始めていて、我ながら情け無い。

「ちゃんと出来たら、俺からもご褒美、―――やるからよ?」
子供をあやすような優しい声音に、誤魔化されたフリをして。
明日叶は震える指を、着ているシャツのボタンに掛けた。






「………っぁ!」
ひやり、と体温よりずっと低めの感触が敏感な場所を掠め、思わず声が上がる。
けれどその指は動きを止めず、躊躇うことなく明日叶の身体をなぞっていく。
冷たくて、こそばゆくて。
けれど決してそれだけではない、焦れたような感覚。
ディオの指が滑るたびに、明日叶の身体に細く白い線が描かれてゆく。
「あ…………っ………」
ひとしきり上半身を這い回った後、改めて甘い絵の具をたっぷり掬い上げたその指は、空気に晒したままの胸元に、二つの白い花を咲かせた。
「甘そうだな」
「………っ………」
濡れた指で執拗にくりくりとその場所を刺激されて、強く噛みしめる唇とは反対に、足元は力無く震えだす。
「たの……っし……い、のか……っ?」
必死に平静を装って尋ねるが、不自然に途切れる言葉と熱い呼吸が、全部それを裏切ってしまう。
案の定、ディオは心底面白そうに笑った。
「ああ、楽しいな。いい眺めだぜ?」
ぐい、と両手を引かれる。
無防備に晒した胸元にディオが舌を伸ばし、それが片方の白い花を突いた。
「ひぁ………っ……」
硬く窄めた舌先で乳首の先をこりこりと転がしたかと思うと、そのまま唇に含まれる。
そのままちゅくちゅくと、唇を窄めるようにして小刻みに吸われた。
「………旨いぜ?明日叶」
「あ……っ……やあっぁっ……んっ…!」
ぐじゅぐじゅに溶けた生クリームと、熱を持った唾液とが交じり合って、ディオの舌がいつもより滑らかに這い回る。
乳首の先端の窪みを執拗に抉りながら、とろりと身体を伝う白く甘い液を丁寧に丁寧に舐め上げては、喉を鳴らして飲み込む。
眼下で繰り広げられる卑猥な光景に耐えられず、明日叶は目を閉じると反射的にディオの頭を抱え込んだ。その結果、より鋭くディオの舌を感じることになってしまって、明日叶はぎゅっと眉根を寄せて下唇を噛みしめる。
クリームと一緒に、胸元からどろどろと全身が快楽に溶け出してしまいそうだ。

「お前、本当にココ、弱いのな」
「や……っぁ………ぁ……!」
先端を含みながら話されて、淫らな振動がそこからビリビリと腰へ伝播してゆく。
スラックスを履いたままの下半身は、慣れない刺激と激しすぎる快感にとっくに悲鳴を上げていて。隆起したそこは、痛いくらいに存在を主張しながらその先の刺激を待ち望んでいた。

くすり、とくぐもった笑い声が聞こえる。
「なぁ明日叶……腰、動いてるぜ?」
とんとん、と指先で腰骨を軽く突かれた。
無意識にディオの身体に擦り付けるようにして揺れていたそこを指摘されて、カッと全身が熱くなる。
「なんだ、もうメインディッシュか?まだ、ココしか食べてないのに?」
「……っるさ………あっ、ん!」
からかうような言い方に、声を振り絞るようにして突っぱねる。
だがそんな些細な抵抗も、そっと立てられた前歯の感触に、呆気なく濡れた嬌声に変えられてしまう。
「ぁ……ぁ……はっ……」
切ない呼吸が、声になるのを止められない。
「イイ声だ。でも、まだ足りねーな」
挑発するように見上げてくるディオが、ちらと舌なめずりをする。
口の端に付いたクリームを舐め取るだけの自然な仕草だったにも関わらず、明日叶にはまるで自分を喰らおうとしている凶暴な獣のように見えて、ぞくぞくしてしまう。
「今日は、もっと鳴いてもらおうか。イヤらしいお前の全部、俺に見せてくれるだろ?」
立ち上がりながら耳元に吹き込まれた甘い甘い懇願の声が、明日叶の中に僅かに残った羞恥心と躊躇いを塗り潰していった。





「ほら明日叶、腰上げろ」
じんじんと疼く胸元をようやく解放されて、ディオが腰掛けていた椅子に再び座らされる。
ぼんやりとした意識のまま言われたままに腰を上げると、下着ごと一気にスラックスを抜き取られた。
「………っ!」
布の下で熱い空気に身悶えていた明日叶の半身は、突然空気に晒され、その急な温度差に怯えるようにひくひくと揺れた。
「乳首だけでこんなになってんのか、明日叶。かわいーの」
「言う……な……っ」
ふるふると力無く首を振るが、長い指でその顎を掴まれてしまう。
「見ろよ、明日叶。もうこんなに腫れてる。真っ赤な……果物みてえ」
ぐっと顎を下向かされ、不可抗力で視界にそれが映る。
熟れたプラムのように色付いた先っぽが、とろとろと半透明な涙を流している。
―――自分でも直視出来ない。

「果物に果汁、か」
ニヤリと、意地悪げに口元を歪めると、ディオは良い事を思いついたと言わんばかりに小さく口笛を吹いた。
………こういう時のディオの言う“良い事”とは、大概とんでもない事であることを、明日叶は身をもって知っていた。

「なぁ明日叶」
さわさわと優しく耳下に指を差し入れながら、ディオが顔を寄せてくる。
「本当は俺が触ってやろうと思ってたんだが……こんな状態じゃお前、俺の指触れたらすぐイッちまうだろ?だから」
言いながらすっと身体を離すと、後ろの机に置いてあったケーキの残りを、受け皿ごと手に乗せて戻ってきた。
二人分を切り分け余ったそれは、先ほどディオの指先で何度も掬い取られたせいで、表面のクリームがこそぎ取られている。
それでもまだたっぷりと残る白い部分を、器用に人差し指と中指だけで大きく掬うと、ディオは言った。
「明日叶、ほら、手ぇ出せよ」
訳のわからぬままに差し出した右手の平に、こすりつけるようにクリームを渡される。
自分の指に残ったそれをぺろりと舐め取ると、ディオが言った。
「お前が自分でトッピングしろよ」
「な……に……?」
意味が分からないと目で問い返す明日叶に、ディオがもう一度繰り返す。
「果物と果汁がソコにある。あとはクリームでトッピング、んで完成、だろ?」
ソコ、とディオが顎で指し示した場所が、ひとりでにぴくりと反応する。
唐突にその意図を理解して、明日叶は羞恥のあまり勢いよく顔を上げた。
「なっ………嫌だ、そんな……っ」
上半身だけでもその卑猥さに眩暈がしそうだったというのに、こんなところに――しかも自分の手でなんて。
けれど、必死で抗議する明日叶を見ながら、ディオはニヤニヤ笑いを消さない。
「本当に、嫌か?」
「嫌……っだ」
「本当に?」
「…………」
「お前のソコは、本気で嫌がってはないみたいだけどな」
「………っ」
視線を合わせていられなくて、思わず顔を逸らす。
と、一瞬、視界にそれが映った。
こんな恥ずかしい命令をされてなお猛りを鎮めるどころか、さっきよりも一層大きさを増したような気がするそこは、明日叶の意思とは裏腹に、しとどに果汁を滴らせていた。
「俺に、プレゼントしてくれんじゃねーのか?」
ふと、甘えるような声音が明日叶の耳をくすぐる。
いつの間にか目の前に膝を付いたディオが、明日叶の瞳を覗き込んでいた。
「俺は、ちゃんと言ったはずだぜ?本当に欲しいもの」
「………っでも…、こんな」
「俺が一番欲しいものは、お前だ明日叶。お前が欲しい。お前が、いい」


詐欺師のくせに、ちっとも嘘で塗り固められていない直球の言葉が、ずるくて卑怯で……なのに、どうしようもなく明日叶の心を揺さぶる。―――煽り立てる。


そのまま顔を落とすと、ディオはちゅ、と明日叶の震える分身にキスを落とした。
「……ぅ…っ……」
突然の刺激に、思わず腰を引いてしまった。
素肌に触れた背凭れの冷たさに、ひやりとする。
「ご馳走、してくれんだろ?明日叶」
笑った瞳の、けれど激しい熱を確かに燻らせたその視線に、明日叶は喉を鳴らした。
「そうだ、そのまま」
ぎゅ、と両目を閉じると、明日叶はディオの声に従って恐る恐る手を下ろしていった。















◆あとがき◆

すいませんすいません!先に謝っておきます。
2ヶ月余りも放置した上に続きます!ごめんよディオ〜〜〜!
というわけで、ディオ誕ssの続きです。いやはや、うっかり延ばし延ばしになってました。
プレゼントがケーキときたら、もう生クリームプレイしかないでしょう!(同意を求めるな)
序盤戦はこれでおしまい。次は本番ですよぅフフ♪
題して「明日叶ちんの☆裏☆クッキング教室」(笑)

2010.5.16 up







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