そういえば、と明日叶はジャケットの右ポケットを探った。
差し込んだその中で、小さな塊がいくつも指に当たった。





『明日叶ちん!これ、持ってて』

朝、食堂で別れる間際に、こっそりヒロから渡されたものだ。
片方の手のひらから零れ落ちるくらいの量の飴玉に、礼を言うよりも何も、困惑の方が先に立った。
そんな明日叶の疑問を視線だけで黙らせて、ヒロは小声で、けれどもう一度きっぱりと言った。
『いい?明日叶ちん、絶っっっ対!!今日一日はこれ、持っててよね!!』
理由はさっぱり分からなかったが、胸ぐらを掴まれかねない迫力に思わず怯み、頷くしかなかったのである。




結局、ヒロがとったその行動の意図は分からなかったが、まぁ何にせよ、今となってはありがたかった。
ナイスタイミング、というやつだ。

「はい、じゃあこれ」
ころん、とそのうちの一粒を手に乗せてやると、太陽は「わーい♪」と素直に歓声を上げた。
そのままいそいそと包みを破ると、中身を口に放り込む。
飴玉を舌でコロコロ転がしながら、心底幸せそうな表情を浮かべる太陽に、思わず笑みが零れてしまう。
目を細めて微笑むと、明日叶は次々とポケットから飴を取り出した。
「すげー!センパイ、魔法使いみたい」
「まだいっぱいあるぞ」
そう言って二つ目を渡してやろうとすると、忙しなくガリガリと飴を噛み砕いた太陽が、おもむろに口を大きく開けた。
「んごっくん。……よし、あーん♪」
「………ばか。仕方ないなぁ」
僅かに頬を染めて苦笑すると、自分たち以外の影が周囲に見えないことを確認してから、明日叶はそれを指で摘んで口に入れてやった。
「ん〜〜〜〜ウマ〜〜〜い」
笑み崩れた太陽が、ぴょこぴょこと全身を揺らす。
それに応じて、腰から下がったふさふさの尻尾が、ぱたぱたと揺れた。


(やっぱり………これは、犬、だよな………)


思わず突っ込んでしまった自分の心の声に、笑い出しそうになるのを必死で止める。
そんな明日叶に気付かぬまま、太陽はもうひとつ〜、と甘ったるい口調で強請ると、再び口を開けた。














「おはよう、明日叶ちん」
ぽん、と背中を軽く叩かれて、後ろを振り返った。
「おはよう、ヒロ」
今日は早いんだな、と言い終わる前に、食堂の入り口からずるずると廊下の隅へと引きずられた。
「な、ヒロ、どうしたんだよ」
訳が分からずそう尋ねると、眉を吊り上げた顔が目前に迫った。
「明日叶ちん。昨日、ちゃんと渡した飴、持ってたよね?」
「え?」
「持・っ・て・た・よ・ね!?」
「う、うん、持ってた」
詰め寄るヒロに頷いて見せてから、そうだ、と明日叶は思い出して続ける。
「ありがとな、ヒロ。ちょうど昨日、仮装してた太陽に会ってさ。ヒロにたくさんもらった飴、やったら喜んでたよ」
明日叶が楽しそうにそう答えると、ヒロの表情がみるみるうちに緩んだ。
「はぁ〜〜〜………そう、ならよかったんだ」
脱力したように安堵の息を吐くヒロに、明日叶が訝しげに眉を顰める。
「ヒロ?一体………」
「おっはよーっス!!センパイ!!あ、ヒロも」
「はよ、あすか。ヒロ」
真意を問いただそうとしたちょうどその時、向こうの方から太陽と興が姿を現した。
「いいんだ、それなら♪じゃ、明日叶ちん、朝ゴハンにしよう」
先ほどまでとは打って変わって軽やかに食堂へ向かうヒロに、明日叶はどこか腑に落ちないまま続く。
「ヒロ〜〜。お前、あの耳、なかなか取れなかったんだぜ?」
「ああ、あれね。くっつきにくかったから、ちょっと接着剤混ぜてたし」
「なんだとぅ!?おまっ、頭禿げたらどーすんだよ!!」
「はん!その刺激でちっとは頭もよくなんじゃないの!?」
「なーにーーー!!?」
「こら、早く席につこう」
いつもと変わらぬ舌戦を繰り広げる二人を見て、明日叶が笑う。
それを横目に見ながら、ヒロが小さくガッツポーズをとった。
「よっし!バカ犬がバカでほんっと良かったー♪」

作戦成功☆
そんなヒロの呟きは、騒がしい朝の喧騒に掻き消され、誰にも聞こえることはなかった。




 ED1 「Treat成功♪」 





◆あとがき◆
ハロウィンお遊び企画、EDその1でした♪
こちらは「Treat成功」EDですvv
太陽はきっと単純だから、お菓子もらえたらそれでニコニコ満足なんだと思うんです。
「わーい☆大好きな明日叶センパイに、美味しいお菓子食べさせてもらったっスー♪」
……という、ちょっとおバカな太陽のEDでした(笑)
ヒロの予防策、大成功EDともいいます。
もうちょい腹黒い、アダルトな太陽がお好みの方は、どうぞ別の選択肢へお進みくださいましvv

2010.10.19 up












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