「………太陽〜〜……」


身体の下から低く絞り出すような声が聞こえて、太陽はびくりとその肩を震わせた。
恐る恐る顔をあげるとそこには、恨めしそうに自分を見上げる明日叶の瞳。

「あ、あの……センパイ、あの…」
「バカ太陽〜〜〜〜」
「ごめん、ごめんなさいっ!!」
慌てて半身を起こしてぺこぺこ謝り倒す。
深く溜息を吐いただけで何も言わない明日叶の顔を伺うように盗み見て、こんな時だ
というのに、太陽はぽうっと見蕩れてしまった。


うっすらと額に浮いた汗、上気した頬、僅かに乱れる息。
そのどれもが儚げでいながら扇状的で、太陽の男の部分を妖しく、確かに刺激する。


思わずごくりと唾を飲んだのと同時に、頭をはたかれた。
「あいてっ」
「反省、してないだろ」
考えていることを、見透かされたのだろうか。
明日叶は呆れたようにもう一度太陽の頭を軽く小突くと、気だるげに起きあがった。
「…………あ」
乱れたシャツを整えようと、無意識にウエスト部分に伸ばした手が止まる。
触れた布は、すっかり濡れそぼってしまっていて。
水とは明らかに違うその感触は、もうしばらく経てばすぐに形容しがたい状態に乾燥
するだろうことを簡単に予測させた。
「あ〜………」
そんな明日叶の様子を見て、太陽もしゅんとうなだれる。
「ごめん……なさい、センパイ………」
肩を落とした太陽に、明日叶が思わず笑みをこぼす。
「仕方ないな」
苦笑しながら、今度は優しく髪を梳いてやった。
「だから、このままはマズイって言ったのに」
こらっ、とわざとしかめっ面して叱ってみる。
「う〜〜〜…だってセンパイ、可愛いすぎんですもん…」
「かっ!?……何だよそれ!」
思わず大きな声が出てしまった。
「だってね、だってねっ」
ここぞとばかりに、太陽が堰を切ったように話し出す。


チューした途端に目はウルウルしだすし、舌入れたらすっげぇ恐る恐る応えてくれよ
うとするし、でも恥ずかしそうで顔は真っ赤だし、んでもって服の上から触ってるだけ
なのになんかもういっぱいいっぱいだって感じで吐く息熱いし、きゅんってするような
切ない声でオレの名前呼ぶし、もうオレ………


「あーーー!もういい!もう分かった!!」
指折り『明日叶の可愛いところ』を数え出す太陽を、明日叶が耳を押さえて遮った。
その顔が、熟れたトマトみたいに染まっている。
そんなことは全く意に介さず、太陽は苦悩するような顔のまま、「つまり」とまとめた。
「センパイが可愛すぎるせいなんっス」
そう言い切ると、真顔で頷く。






いつものように太陽の部屋に遊びに来て、―――まぁ、そういうことになってしまった。
別にそれ自体は珍しいことでもないのだが、今日はその、ちょっとばかり太陽に勢い
がつきすぎてしまったのがマズかった。
制服だからと抵抗する明日叶をやや強引に押さえ込んで、そのまま………そういう
ことなのだ、つまり。
もちろん、断固抵抗しなかった自分にも、責任はあるのだが。
明日叶は再び溜息を吐くと、カサカサと所々卑猥な色に乾き始めたズボンを諦め顔
で見下ろした。
(これは……一度手洗いしてから、クリーニングに出さないとな)
まさかこのままの状態では寮のスタッフにも渡せまい。
替えのズボンをおろさないと、とぼんやり考える。
「センパイ?」
「あぁ、いったん戻るよ。着替えなきゃ」
立ち上がろうとすると、途端に足がもつれた。
ふわふわとした独特の余韻に痺れる下半身が、トロトロと奥を伝って降りてくる温か
な感触が、明日叶の身体の自由を奪う。
思わず赤面して、ベッドに座り直してしまった。
「っと、センパイ、危ないっスよ」
咄嗟に差し出した腕で明日叶を支えると、太陽が言った。
「オレ、その……ちょっと今日、あの、無茶しちゃった、から……」
いつもの歯切れの良い物言いとは裏腹に、心底申し訳なさそうに太陽が呟く。
「ごめん、センパイ。…ごめんね?」
「もういいってば」
項垂れる太陽の頬に、気にしてないよと小さくキスをする。
途端にぱぁっと輝き出す表情に、とことん自分は弱いなぁと明日叶は内心苦笑した。
「センパイ、もう少しゆっくりしてって。ねっ」
ぽんぽんとベッドを叩く。

そうさせてもらいたいのは山々なのだが。

「うん、ありがたいんだけど……その」
「え?」
「……気持ち悪いんだ、これ」
自分のものと太陽のものとで、もはやズボンやシャツは勿論、下着に至っては、素面
の今では 耐え難いような音がするほど濡れてしまっている。
さっさと脱ぎ捨ててしまいたいが、さすがにこんな行為の後、煌々と電気の点る室内
ではいささか気恥ずかしい。
もじもじしていると、太陽が「ああ!」と合点がいったように立ち上がった。
「ならセンパイ、えーっと………えっと、はいコレ!」
がさごそとクローゼットの中をかき回していたかと思うと、太陽は一枚の服を差し出し
てきた。
爽やかな色のそれは、明日叶にも見慣れたもので。
「あっ、大丈夫っスよセンパイ。これ、昨日洗濯から戻ってきたばっかっスから」
ちゃんとキレイっス!とにこにこしながら太鼓判を押す。
「大きめだから、とりあえずそれ着ててください!」
……で、もうちょっと一緒にいて欲しいっス。
ちょっと恥ずかしそうに、最後の方はぼそぼそと呟く。
ストレートな甘えに、明日叶は思わず相好を崩した。
「…分かったよ。俺も、もう少し……いたい」
「ほんと!?やった!!」
「あー……でも」
なになに?と太陽が身を乗り出してくる。
その額を指で押し返して、明日叶は照れくさそうに言った。
「なんか、目の前で脱ぐの…恥ずかしい、から。……見るなよ」
本当に今更。自分でもそう思うのだが。
それでも太陽は素直に頷くと、立ち上がった。
「ウッス!じゃあオレ、先シャワー浴びてきていいっスか??」
「うん、そうしてくれるとありがたい」
「ちゃんと待っててくださいね〜〜!」

一緒に寝っよう♪センパイと寝っよう♪♪

調子っぱずれな歌を口ずさみながら浴室に消えた太陽を見送って、明日叶は手にし
た服を広げてみた。





レモン色の、カジュアルなパーカー。
普段、太陽が気に入ってよく着ているものだ。
制服のジャケットの下に着込んでいる姿を、転入した頃からよく見かけていた。
ヒロに言わせると、どことなく「ビミョー」な柄らしいが、少し擦り切れたそのイラスト部
分が持ち主の愛着を表しているようで、どこか微笑ましい。
明日叶はシャワーの音が聞こえてくるとすぐに、着ていたものを脱ぎ捨てた。
とさ、と重みを感じる音を立てて、制服が床に落ちる。
手早くそれをまとめると、簡単に畳んでおく。汚れた部分は、隠れるように。
ティッシュで身体を拭ってようやくすっきりすると、遠慮無くパーカーを頭から被った。





(………あ)

首を通した瞬間、ふわり、と嗅ぎ慣れた匂いが鼻をくすぐる。
洗濯に出したばかりだと言っていた。なのに。
どうしても、持ち主の体臭というのは染み込んでしまうものなのだろうか。
なんとなく心が温かくなる。ほっとする。
まるで―――抱き締められているように。

知らず知らず、両手で自分の肩を抱いてしまい、明日叶は慌てて姿勢を正した。
顔が、熱い。
トクトクと切なく揺れる鼓動を抑えるように、明日叶はパーカーの裾を意味無く引っ張
ってみた。
太陽本人も言っていたけれど、自分より肩幅も上背もある彼にとっての“大きめ”だ。
明日叶が着ると、それはまるで女の子が着る、ごく短めのワンピースのようになって
しまっていて。
(……む)
同性として、少しだけ妬ける。

けれど。

自分には余る袖丈や、両脇の緩み、太腿を少し隠すその裾の長さが。
年下の恋人の、意外なまでの立派な体躯をまざまざと表しているようで、明日叶はな
んとなくいたたまれない。
普段さほど意識しない、太陽の腕の強さとか背中の広さとか、なんだかそういうのが
次々と脳裏に浮かんできて、頭がぼうっとする。
その延長線上で、先ほどまで自分をきつく抱いていた熱い身体の感触が一気に蘇り、
一際強く鼓動が跳ねた。







「センパイ」
「ぅわっ!」
ぼんやりしているところに、太陽の声が掛かる。
我に返ると、ぽたぽたと髪先から雫を垂らした太陽が、じっとこちらを見詰めていた。
「あ、あぁ、出たのか。これ、ありがとう。ちょっと俺には大き」
動揺を誤魔化すように笑って話し始めた明日叶を、二歩で距離を詰めた太陽がベッド
に押し倒す。
「っ、ちょっ……太陽!?」
「センパイ、だめ」



上から真っ直ぐな視線が降ってくる。
その瞳が、何故だか泣きそうに歪んでいて。
「太陽……?」
「だめだよ、そんなの。もう、だめだって」
その一言を繰り返しながら、太陽の吐息が荒くなっていくのが分かる。
声が少しずつ掠れていく。いつもより、ほんの少しだけ低くて硬い、声。
―――これは、彼が欲情しているときのしるし。
そう思い当たって、明日叶の身体がカッと熱くなる。
「なん……っ……たいよ……っ…」
パーカーの上からざわざわと手が這い回る。
「なんでそんなに可愛いの、センパイ。もう……オレ、反省したばっか、なのに……っ」

どうしよう、と泣き声に近い呟きが耳元で零れた。

思わず両腕を回して、きゅっと身体を抱き締める。
―――どうして、こんなにも。
滴り落ちてくる水滴が、明日叶の額を、首筋を、冷たくくすぐった。
―――こんなにも、愛おしいんだろう。
心臓はドクドクと荒々しい音を立て続けているのに、同時に、なんとも甘やかで優しい
気持ちが全身に広がってゆく。

「いいよ、太陽……俺も、」
服じゃなくて、ちゃんとお前に。
そう伝えようとした声は、噛み付くように奪われた口付けとともに飲み下された。




だから、もう一度。








絵:わたべそら様  文:雪織あやと








◆あとがき◆

ひゃっほ〜〜〜〜っ!!!なんとなんとなんと!わたべ様とのコラボ作品です!!(/>▽<)/
雪織の「太陽のパーカーを明日叶ちんが着たら……フフ、ぶかぶかでしょうねv」という妄想に、
「となれば、やっぱ生足ですかね!」とノリノリで乗っかって下さったわたべ様。
後日、なんとそのイメージを具現化して下さいました…!!(※1枚目イラスト)
「ぎゃあ!(萌)」ってなって、感謝の意を込め勢いでイメージss書いて送りつけたところ、
今度はラストシーンの狼化太陽を描いて下さったという……!!(※2枚目)
ぐはぁっ!(吐血)なっ、ちょっ、も、萌え殺される……っ!!!orz
サイト掲載を快くOKして下さったわたべ様に、心からの感謝と敬意と愛を込めてvv

2010.5.5 up







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