「あれ?センパイ、ココ、どしたの?」


剥き出しの背中が、同じく剥き出しの胸に抱きすくめられたかと思うと、そんな色っぽい雰囲気を一蹴するような素っ頓狂な声が、首の後ろで聞こえた。

「え?どこ?」
彼のいう“ココ”がどこなのか見当がつかず、明日叶は首を捻って尋ねた。
が、もちろん明日叶からは見えない。
「ん?ココ。結構、ヒドそうだよ?打ち身、スかね」
そう言いながら、トントン、と背中と首の間辺りを軽く示される。
恐らく場所は外してあるのだろう(だって全然痛くない)、その指先に意識を集中し、明日叶はしばらく考えた。

(………あ)

心当たりを思い出すと同時に、ちょっとした恥ずかしさに頬を染めた。
「どしたの、センパイ」
そんな明日叶に気付かない太陽が、心配そうな声で尋ねてくる。
「あー……うん、大丈夫」
「どっかでぶつけた?」
「………うん」
こくり、と小さく頷くと、明日叶はぽつぽつと話し始めた。





「………っ」
後ろで、堪えきれないといった風の声が、喉の奥で潰れて聞こえた。
「せ、センパイって……しっかりしてるように見えて、案外……っ」
肩が揺れているのが、ベッドのスプリングを通して伝わってくる。
赤らんだ顔を前に向けたまま、憮然と呟いた。
「………笑われると思った。だから言いたくなかったんだ」
そう言う明日叶に、ごめんごめんと笑って眉を寄せると、太陽は肩越しに唇を合わせてくる。

くそ。この表情。
年下のくせに、やけに大人っぽくて余裕ぶっていて、――――好きなんだ。


優しい口付けを受けながら、仏頂面のまま、明日叶はそんなことを考える。






唇が離れると、緩んでいた両腕が、再び明日叶の身体を抱き締めた。
不自然な方向に曲げていた首が解放されて、ちょっとだけ気が抜ける。
―――と。

「ひゃっ……!」
ちゅう、と音をたてて背中を吸われた。
無防備な場所への唐突な刺激に、思わず間抜けな声が上がる。
そんな明日叶の反応を面白がるように、太陽の楽しそうな声が聞こえた。
「ね、センパイ。知ってる?」
言いながら、硬くした舌先で同じ箇所をつつかれる。
「………っ」
忘れていた打撲の痛みが、じわじわと背中を侵食していく。
わざと外してくれていたさっきまでとは、違う。
声のトーンも、抱き寄せる腕の力も、触れた舌や唇の熱さも。

「痛みって、気持ちイイのと紙一枚らしいっスよ」
ぐりぐりと、明日叶からは見えない傷を抉るように舐めながら、悪戯っぽい声が、早く、早くと明日叶の肯定を待っている。
きっと、隠し切れない熱を込めた眼差しで。


「……それを言うなら、紙一重、だろ……っ」




語尾が、甘く途絶えた。






                          言ノ端七題  「1.優しい唇」






◆あとがき◆

太陽BD記念週間、1日目です。
背中にちゅうが、なぜかすごく好きです。ので書いてみた。
眞鳥さんが実はMという意外性に並び立てる(と思う)、太陽のS疑惑。
あのキラキラした目で、傷口とか平気で舌突っ込んできそう。
「センパイの血、すげぇ甘い」とか言いながら、無心で舐めてそう。わんこだけに。
そんなイメージです、雪織の中では。

お題配布元「ヒソカ」様

2010.6.21 up







×ブラウザを閉じてお戻りください×