あれ?




ふと目を開けた明日叶は、妙な違和感を感じて、しばらく考え込んだ。
……と言っても、覚醒しきっていない思考回路は、びっくりするくらい鈍い。
その原因に思い至るまで、きっかり10秒くらいは掛かってしまった。


(そうか)


おかしいのは、この、視界だ。
目の前ですぅすぅと穏やかな呼吸に合わせて上下する、広い背中。
見慣れないのは、これのせいだ。





ほんの少しの身長差のせいか、太陽はいつも、明日叶を後ろから抱き締めるようにして眠る。
俺は抱き枕か、と呆れたように言うと、「こうしてればセンパイ、逃げられないでしょ」と返された。逃げやしないよ、と反論すると、「オレが安心するの」と、もっと強く抱きすくめられた。


まったく。
思ったことをそのまま素直に口にする彼には、時折、辟易させられる。
もちろん、嫌な意味では全くなく。
―――照れてしまうから、困る。






それにしても。

(珍しいな)

明日叶は、そっと手を伸ばしてその背に触れてみた。
体温の高い肌は、触れた場所から明日叶の指を温めていく。
ぺた、と手のひらをつけると、上下する筋肉の動きと、とくとくと響く鼓動が、直に伝わってきてくすぐったい。

起きる気配を見せないその姿に安心して、明日叶は大胆な行動に出た。
太陽は、一度寝入ると、よほどのことが無いと目を覚まさない。
それでも、起こさないように慎重に、片肘を付いてじりじりと距離を詰める。
息の掛かる距離まで近付いて、ぽふん、と身体を改めて横たえた。
スプリングが微かに軋んで、思わず身を固くする。
それでも変わらない、規則正しい呼吸を確認すると、明日叶はおずおずと右腕を伸ばし、そのまま脇の下に差し込むと、ぎゅうっと背後から抱き付いた。
「……ん……」
ほんの僅かに、太陽が呻き声を上げる。
けれど、それが覚醒には至らないことを知っているから、明日叶は気にせず息を吐いた。



(こうすれば、逃げられない)
ふふ、と、小さな笑みが零れる。
(安心する)
そうだな。本当だ。



腕の中に太陽を閉じ込めると、明日叶は再びまどろみに身を浸す。
くっつけた額に、頬に、ぬくもりが移っていく。




たまにはこんな夜も、悪くない。









                         言ノ端七題  「3.愛しい背中」






◆あとがき◆

太陽BD記念週間、3日目です。
いつもの寝方とは逆ver.(※雪織脳内イメージ)、明日叶ちんが抱き締める側になる話でした。
太陽って、眠り深そうですよねぇ。昼間いっぱい動いて、夜はしっかり眠る。完全に子供。
体温も高そうなので、冬場は重宝しそうです。夏場は……うん、まぁね(笑)

お題配布元「ヒソカ」様

2010.6.23 up







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