「あ」


明日叶の身体を、胸元にすっぽり抱き込んだ太陽が、突然、拍子抜けするような声を上げた。

「…?どうした?」
反射的に尋ねると、上からぐりぐりと顔をすり寄せられて、いっそう強く抱き締められる。
「へへへー♪」
「だから、どうしたんだよ」
怪訝に思った明日叶が顔を上げると、ぱっと身体を離した太陽が、嬉しそうににかっと笑った。

「センパイ、最近、びくってしなくなったっスね」
「へ?」
言葉の意味を図りかねていると、また、ぎゅうっと腕の中に閉じ込められてしまう。
「前までは、オレがこうやって抱き締めようとすると、きまって一瞬、びくってしてたのに。最近は、急にこうしても、しなくなった」


言われてみて初めて、そうかもしれない、と思い当たる。
―――と同時に、なんだか無性に恥ずかしくて居た堪れない。



持って生まれた能力のせいで、他人と距離を置く癖がついてしまい、いつしか人に触れることも、触れられることにも敏感になっていた。
アメリカにいた頃は、日本などよりずっと多彩で頻繁なスキンシップがどうにも苦手で、随分苦労したものだ。
けれど、そんな明日叶の苦手意識など吹き飛ばすほど、太陽は気楽に人懐こく、躊躇いなくその手を伸ばしてきた。
最初の頃こそ、それこそ変な汗を伴うほどの緊張感が全身を襲ったものの、それが少しずつ緩和されていく、その意外なほどのスピードには、明日叶自身驚いたものだ。

今ではもう、この手に触れられない自分の方が、信じられない。
この温かなぬくもりと、自分に触れる優しい身体の傍が、明日叶の居るべき場所になってしまった。

―――もう、彼に触れられない生活なんて、考えられない。

そんな大胆なことを考えてしまい、明日叶は思わず顔を伏せた。



しかし、と明日叶は思う。
今にして考えると、せっかく恋人同士になったというのに、いちいち過敏に(反射とはいえ)拒否反応のようなものを示す明日叶に、よくもまぁ懲りずに付き合ってくれたものだと思う。なんだか申し訳ない気持ちにすらなってくる。

「………ごめん」
「なんで謝るの!?」
腕の中で項垂れると、驚いたように返された。
「俺、最初の頃、なかなか人に触られるの、慣れてなくて……その、お前に嫌な思いさせたんじゃないか、って……は、反省してる」
だが、すぐに豪快な笑い声が降ってくる。
「ナイナイ。いっそ逆だよセンパイ」
笑みを残したままの声に、悪戯っぽい響きが加わった。

「すっげぇ可愛かったんだからね、あん時のセンパイ。オレが触れようとすると、一瞬、びくってするの。抱き締めても、腕の中でその瞬間、ぴくってすんの。でも、絶対イヤって言わなかったでしょ。許してくれてたよね?だから、本当に慣れてないんだなぁ、けど、オレは触ってもいいんだなぁって、めちゃくちゃ嬉しかった」


ぷるぷる震えてるとこなんか、ホント子猫みたいで。
どこかで聞いたようなセリフを幸せそうに吐かれて、明日叶の耳が余計に染まる。


「オレに慣れてくれて、嬉しい。でも、慣れてくれてなかった時の明日叶センパイも、すっごく好きだったよ」
それに、と、意地悪な声が耳元で続ける。
「慣れてくれても、未だにアノ時は震えてるよね、センパイ。かーわいーの」
「う、う、うるさい!」
ぽかぽかと、しっかりとした胸板を両手で叩く明日叶を丸ごと包み込んで、太陽は暢気に笑っている。


明日叶は内心、大きく舌打ちをする。
こいつも大分、ふてぶてしくなった。
もっと最初は、純真で、可愛らしかったのに……!


悔し紛れにそんな憎まれ口を心の中で叩いてみるが、すぐに自嘲気味の笑みが浮かんでしまう。

ああ、それでも。
そんなこいつが、やっぱり好きなんだ。





ぬくぬくとした、けれどきっと、もうすぐ自分を焦がす熱に変わるのだろうぬくもりに、明日叶は素直に頬を寄せた。






                        言ノ端七題  「6.なにげない仕草」








◆あとがき◆

太陽BD記念週間、6日目です。
子猫チャン発言が書きたくて出来た話。太陽は兄貴の弟分ですから!狼の仔ですから!!
そんくらいのタラシ資質は受け継いでいるかと。しかも天然。たち悪い(笑)
太陽じゃなくても、びくびくしてる明日叶ちんにはちょっかい出したくなるよね!
S部分をちくちく刺激します、明日叶ちんの可愛さは。


お題配布元「ヒソカ」様

2010.6.26 up







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