キレイだな、と太陽は目を細めた。


眩しいほどに妖しく輝く白い肌に、少しずつ、少しずつ、うっすらと血の色がのぼっていく。
太陽が、身体の位置を動かすたびに、とても素直に。
それはまるで、上等な純白の布地に、好きな色を好きなように垂らしていくような、妙な緊張感と満足感と、―――そして、征服し甲斐のようなものを沸き上がらせて、太陽の男の部分を巧妙に刺激する。



「センパイ………こっち、向いて」
律動を止めると、胸板をその背に擦り付けるようにして近付いて、囁いた。
ただそれだけの動きに、触れた背中が驚くほど体温を上げ、食いしばった口元からは堪えられない吐息が漏れ、繋がった部分が淫らにうねる。
後ろから見える首筋が、また美しい朱色に染まった。

「む、り………」
力無く首を振る明日叶に、太陽は容赦無く繰り返す。
「顔が見たい。こっち、向いて」
有無を言わせない口調に、腕の中の裸身が僅かに身じろいだ。
「…っん、……っ……ふ、………」
片肘を軸に、獣のような格好から、時間を掛けて体勢を入れ替える。
ずるり、とその動きに合わせて、明日叶の中が太陽を擦り上げた。
体内に残る存在をなるべく意識しないようにか、荒い呼吸を細切れに吐きながら、懸命に求められた通り動くその健気さに、少しだけ、意地悪を言ったことに罪悪感を感じる。けれど。


「センパイ。なんでそんなにゆっくりなの?あんまり激しく動くと、……感じちゃうから?」
自分の昂ぶりが、身体を反転させる明日叶の、一番敏感な箇所に触れるだろうそのタイミングで、太陽はわざと煽るような言葉を吐く。
読みは見事に的中し、向かい合う体勢に落ち着く直前、不自然な体勢のまま、明日叶は小さく悲鳴を上げて、全身を震わせた。

「……っ」
一瞬の強烈な締め付けに、襲いかかる射精感を必死にやり過ごしながら、太陽はそんな自分の波を微塵も感じさせないようなゆったりした動作で、明日叶の身体を最後まで回転させた。
やっと正面に見下ろせた顔は、解放の悦楽と羞恥の苦しさから魅惑的に歪み、噛み締めたせいでぽってりと赤く色づいた唇が、いやに艶かしく見える。
どくどくと眼下で溢れる白い涙が、太陽の分身を縊るのと同じリズムで、明日叶自身の腹を濡らしていくのを見て、太陽はまた目を細めた。



「た、いよ……っ…」
乱れた息の下、弱々しく、けれど確かに非難を込めた声が太陽を呼ぶ。
「んー?どしたの?」
こめかみから両手を髪の中に差し込んで、覗き込むようにして答える。
欲望に掠れ始めた声は、明日叶には気付かれていないようだ。
努めて冷静なフリをし、太陽は明日叶に小さく笑いかけた。
「………い、やだ」
「なにが?」

短い拒絶の言葉に、しまった、やり過ぎたか、と内心焦る。
硬派で生真面目なこの恋人が、自分の前だけでは欲求に素直になってくれることが、嬉しくて仕方無い。恥じらいながら、けれど一所懸命応えようとしてくれる姿勢が、可愛くて愛おしくて、―――扇情的で。
明日叶が太陽にだけ晒してくれる、見たこともないような表情に翻弄されるのが堪らなく快感で、つい、煽るようなことを言っては意地悪してしまう。

ごめん、と素直に謝ろうとした時、明日叶の方が先に口を開いた。


「そんな、目、で……見るな……っ」
「……へ?」
緩慢な動きで腕を持ち上げると、明日叶は自分の両目を隠すようにすると、ふいと顔を背けた。
「センパイ?」
「か、観察するみたいな………お前らしく、ない、冷たい、目…怖い…から、」
嫌なんだ。
泣きそうな声が、もう一度、そう呟いた。


思わず抱き締めた身体が、ほとんど分からないくらいに小さく震えている。
達した反動のせいか、それとも。


「ごめん。怖かった?ごめんね」
宥めるように髪を撫でると、おずおずと両腕が伸びてきた。
首に絡まるそれを好きにさせながら、引き寄せられるようにキスを落とす。
未だ治まらない呼吸のまま、たどたどしく太陽の唇を吸う仕草に、愛おしさが溢れて、なけなしの理性が決壊しそうになる。

「ごめん。でもオレ、こうやってセンパイ見つめるの、やめる気ないよ」
浅い口付けの合間に、きっぱりと言う。
「オレの腕の中で、センパイが見せてくれる表情、動作。全部、絶対に見逃したくない。全部、ちゃんと焼き付けたい、から」
射るような視線になっているのだろうことが、真下で怯えたように固まった明日叶の表情から、簡単に読み取れる。でも。
太陽は苦笑した。

「センパイ、オレが冷たいって?冗談じゃないよ……センパイ、見る目なさすぎ」
唸るようにそう言うと、すっかり動きを止めていた腰を、ゆさり、と一度だけ揺すりあげた。
「………っぅあ」
達したばかりで敏感になった身体への再びの刺激に、明日叶が、抑えられない声を上げた。
「こんなになってるっつーのに……どこが冷たいの?」


ああ、ダメだ。
もう、さすがに限界超えそう。
必死で保ってきたハリボテの冷静さも、熱い呼吸の前にはもう隠せない。
慣れないことは、するもんじゃないな。


自嘲気味にそう呟くと、優しく髪を梳いていた手を、今度こそしっかりと明日叶の腰に回した。
「センパイが、あんまりキレイだから、見蕩れてたんだよ。でも、ゴメン、もうそんな余裕もなさそう」

滑稽なくらい欲に震えた声が、変な熱を伴って、泣きそうに掠れる。
温和な方だと自分でも思っていた性格が、異常に攻撃的なものに変わる前触れだというのを、もう今ではちゃんと自覚してる。ちゃんと、コントロールしなきゃって、分かってる。
―――そして間違い無く、明日叶もそれを、知っている。


(なのに、そんな状態のオレに、どうしてそんな安心したような顔をするの)


体内で膨れ上がる質量に、眉根を寄せながら、けれど、先ほどまでとはうって変わって、明日叶から全身の力が抜けるのが分かった。
「知らないよ、センパイ。そんな無防備な顔、今のオレに晒しちゃって」
おどけたように、冗談のように、最後通告を口にする。
それがもう、ギリギリの譲歩。

すると明日叶は、蕾が綻ぶように、とんでもなく綺麗に微笑んだ。
「その方が、お前、らしくて、」









甘い告白が、起爆剤になった。








                          言ノ端七題  「7.綺麗な人」










◆あとがき◆

太陽BD記念週間、7日目です。最終日です!!
最終日なので(勝手に)エロ解禁ということで、久々のR-18でした。
狼スイッチ入る直前の様子を書きたくて出来た話です。テーマは視姦視線。
でも明日叶ちんはクールな太陽より、頭からガブリと召し上がっちゃいそうな獣☆太陽の方が
安心するんだきっと。もうその時点で、明日叶ちんもかなり……(笑)

とにもかくにも、これにて連続企画終了です!
お付き合い、ありがとうございましたvv

お題配布元「ヒソカ」様

2010.6.27 up







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