ふと、目が醒めた。



目を開けるまでもなく、まだ外の闇は濃いことが分かる。
灯りの落ちた室内は硬質な紺色に染められ、外気同様、下がりきった室温のせいで、剥き出しの右耳が痺れるように冷たい。
けれど、身体は温かさを保っていた。―――季節的にあり得ないほど。
背中、そして腰。
ぴたりと触れ合った背中は、相手の微かな鼓動に合わせて上下し。
しっかりと前に回された腕の触れる腰元は、ぽかぽかと暖かい。
身体を動かさないようにそっと目を開けると、明日叶は小さく嘆息した。
(まるで、猫みたいだ)

――――そう、自分が。



すっぽりと自分を抱きかかえるようにして眠る、後ろの男。
その立派な体躯は、曲りなりとも男である自分をも簡単に覆い隠してしまう。
引き締まった胸は仄かな熱を発していて、困ったことにとても心地が良い。
時折、髪を微かな吐息が掠めるのも、確かに彼がそこにいる証明のようで。
照れくさいのに、ほっとする。

初めて一緒のベッドを使って以来、ディオはこの体勢を好んだ。
きちんと二人並んで仰向けで寝入ったはずなのに、気付くとこうして抱きしめられていることが多い。


ガッティーノ、と彼は自分のことを呼ぶ。
からかい混じりに笑いながら。
――――時折、愛おしそうに目を細めて。
俺は子猫なんかじゃない!と言い張ってみたところで、こうして彼の腕の中に黙って丸まっている今の状況を見れば、全くもって説得力なんか無いな……と、明日叶は自分自身に呆れ――苦笑した。



意識すると、触れ合っている部分が更に暖かくなってきた。
思わずとろんと微睡みそうになる意識を叱咤して、視線を下に遣る。
いつもは目が覚めても、この温もりに負けてすぐ眠りに落ちてしまうから、こうして意識的に彼の体温を感じていられることはあまり無い。
せっかくなので、しばし楽しむことにした明日叶である。

軽く腰に回された手は、両手で包むと簡単に動いた。
長い指に、そっと自分の手を絡めてみる。
同性なのに、こんなに違う。
大きくて力強いその感触に、少しだけ嫉妬してしまう。
この手が銃を握り、躊躇い無く人を撃つ。
けれど、同じこの指が自分に触れ、翻弄し、追い詰める。
物騒なはずのそれは、既に自分には無くてはならない、優しいもので。
明日叶は静かに頬を寄せ、その手に小さくキスを落とした。
いつになく大胆な自分に驚く。
けれど、骨張ったこの手が、たまらなく愛おしい。
背後を窺うが、起きた気配は無い。
背中に感じる鼓動は相変わらず規則正しい。

ほっと肩の力を抜くと、もう一度唇を落とす。




「なぁに可愛いことしてんだ?ガッティーノ」
突然囁かれ、思わず身体が跳ねた。
「ディ、ディオ」
「ん〜〜?どうした、俺の手にミルクでも付いてたか?」
面白そうにそう言って、逆に手を取り口付けられる。
「………っ」
ちゅ、と音を立てて唇を離すと、頭上でディオが小さく笑ったのが分かった。
「大人しくしてな…もう少し、………」

―――呟きは、そこで途切れた。
すぐに微かな寝息が降ってくる。
自分の髪が、それに呼応して揺れる。慣れたくすぐったさが戻ってくる。
「……ね、ぼけてたのか………?」
この男にしてはあまりに無防備で思いがけない姿に、一瞬呆気に取られる。
と同時に、笑いが込み上げてきた。

「っていうか、完全に猫扱いじゃないか……」
悔しさと照れくささで複雑な心境だが、再び静かに動き出した背中の鼓動に抗うことは出来ず。
今度こそ、明日叶も目を閉じることにした。


部屋の中は、いつしか優しい藍色に変化している。朝が近い。


もう一眠り。
触れた背中と、握られた手と。
体温が合わさった場所から、一つに溶けていくような気がする。
もう少しこのまま。
甘やかされてもいいかもしれない。


明日叶は背中を丸めると、もう一度眠りに落ちた。









◆あとがき◆
COUNT TEN様からいただいたお題より。
ディオはホーク捕縛後も、好んで明日叶を抱きまくらにしてるといいと思います。
公式設定によるとディオは寝るとき上半身裸派らしいので、よりあったかいよね!


2010.2.27 up







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