「分かった。分かったから、待て、太陽」 努めて冷静な声を出そうとする明日叶の真上で、そんなの聞いちゃいないという風な乱暴さで、太陽がジャケットを脱ぎ捨てた。見慣れない格好に、こんな時だというのに思わず見蕩れてしまいそうになる。 珍しく首元にしっかりと巻かれた棒タイを力任せに抜き取ると、ぶちぶちと苛立たしげにシャツの前を開けていく。 「……ちっ、」 一番下のボタンが上手く外れなかったらしい、らしくない舌打ちが聞こえた。 余裕の無いしかめっ面が妙に幼くて、明日叶は見上げたままくすりと笑う。 「あー、笑ったなセンパイ」 非難めいた声と同時に、顔の横についた剥き出しの両腕で、逃げ場を無くされた。 「ごめん、だって」 「笑いごとじゃないよ」 笑い声を含んだ謝罪の言葉は、すぐに噛み付くような口付けに飲み込まれてしまう。 「…………っ、ぅ」 上顎から頬の裏、歯列はもちろん、喉の奥まで容赦無く蹂躙しようとする攻撃的なキスに、明日叶も流石に耐え切れず顔を背けた。 「ちょっ……、ま、待てって……っ!」 「無理」 一瞬、息を吸うためだけの間を許しただけで、太陽はまたすぐに明日叶の唇を奪い返した。今度は身体を支えるのとは反対の手が、性急な動きで明日叶のシャツを剥いでいく。 「………っ、てっ…!」 突然、覆いかぶさっていた太陽が身を引いた。 小さく舌を出して、恨みがましそうな顔でこちらを見下ろす。 「〜〜〜……噛んだな〜センパイ〜〜」 「落ち着けって、言ってる、だろ」 呆れたように笑って見せるが、既に上がりきっている呼吸では、説得力なんて欠片も無い。 あんなキスされたら、こっちだって煽られすぎて、もう限界だ。でも。 「お前……こんな勢いのままやられたら俺、明日立てないだろ、絶対」 明日も平日だから、当然仕事だ。―――この場合は、マニュスピカじゃない方の。 ミッションとか関係無い、普通の仕事だとは言え、足腰が立たなければ使い物にならない。 「分かってるよ!分かってる、……けど」 いーや、絶対分かってない。 そこんとこ理解してたら、今みたいな勢いで襲い掛かってこないだろ。 いくら久しぶりだとはいえ。 明日叶は、―――実のところ、たぶん、目の前の男以上に煮え立ちそうになっている自身の内側を隠すように、サイドテーブルに手を伸ばした。 「何してんスか」 膝立ちで見下ろしながら、太陽が唸るように聞いてくる。 「んー、一服しようかと」 「絶対ダメ」 明日叶の手から小さな箱を簡単に取り返すと、ぽいっと部屋の隅へ放り捨てた。 「こら、何するんだよ」 「なんで」 「……うん?」 「なんでそんなに、落ち着いてるの」 違う。落ち着こうとしてるだけだって。 その証拠に、さっき貪られた唇はジンジンしてむず痒いし、外気に晒された胸元は、寒いどころか異常なくらい熱持ってるし、鼓動だって、頭の中でこんなに五月蝿く鳴ってる。 「だって、2ヶ月ぶりっスよ、会うの!?もうオレ、無理」 「……った……!痛い、って太陽……っ…」 「さっきの仕返しだもんねー」 がじがじと首から項、鎖骨から胸元へと歯を立てていく太陽に、明日叶は諦めて抵抗を止めた。 ―――最初から、勝てるわけがないのだ。こいつにも、自分自身の欲求にも。 両手を伸ばして、顔の下で揺れる髪をわしゃわしゃと掻き混ぜてやる。 「……お帰り、たいよ……っ…」 せっかくちゃんと言おうと思ったのに、太陽の指が明日叶の弱いところを確実に引っ掻くせいで、語尾が高く掠れてしまった。 「あーもう、その声……、もっかい聞かせて…?」 熱に浮かされたような口調で呟きながら、くるくると器用に動き回る指と舌と唇が、早々と明日叶の身体の準備態勢を整えてしまう。 「ば……っか、毎日、で……んわ、してた、だろ……っ」 「うん、あれはあれで良かったけど……でもやっぱ、こうやって」 「……んぁ……っ…!」 「耳元で直接のが………すっげぇクるっス」 大きな身体が、まるで獲物に喰らい付く空腹の獣のように、明日叶の全身に牙を立てていく。 「センパイ」 「……んっ……」 「明日、仕事っしょ?」 「……ああ……」 「分かってるから。ちゃんと、セーブする、から」 お前、いっつもそう言うくせに。 きっと俺、明日の朝、立てないよ。毎度ながら、賭けてもいい。―――絶対勝つし。 気付かれない程度にため息を吐いた明日叶は、体勢を整えるため、太陽が一度ぱっと顔を上げたその瞬間、思わず噴き出した。 精悍な顔立ち。 意志の強そうな、切れ長の瞳。 眉間に刻まれた、薄い皺。シャープな頬のライン。 どこをどうとっても立派な青年の顔、なのに。 「な、何、センパイ、なんかおかしい?」 「いや」 くつくつと笑い続ける明日叶に、ちょっとムッとしたような顔をすると、太陽はすぐにニヤッと笑った。 「笑ってられるのも、今のうちだからねセンパイ」 「……っぁ、おまえ、さっきの言葉…と、……っ」 「いくよ」 矛盾を指摘する声は、当たり前のように甘く苦しいものにとって変わられる。 だってお前、昔と全然変わんないんだもんな。 いっぱいいっぱいになると、泣きそうな少年の顔になるとことか。 数ヶ月ぶりの恋人の匂いに抱かれながら、明日叶は二重の懐かしさに身を委ねた。 |
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◆あとがき◆ 「someday」に続く、未来編第二弾でしたvv あー楽しい!捏造未来、ヤバいくらい楽しいです!(笑) ミッションの後で、久々に再会〜っていう設定でした。 太陽は、大人になってもHの時は変わらなそうですね。勢いというがっつきというか(笑) 本当は明日叶ちんのことを名前呼びさせたかったんですけど、織り込めなかった。 それはまぁ次回ということで♪ 2010.8.1 up |
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